When you wish upon うた

歌に願いを

アイドル界の超新星、Ringwanderungのこと

 

いつものようにSpotifyアイドルソングプレイリストを漁っていた時のこと。しばらく無心で聴いていると、面白いイントロに出会った。尖ったリズムで和声を放つピアノに、やや攻撃的なテンポで掻き鳴らされるギター。加えて、"アイドル"感があるもののきっちり声質と音程が揃ったコーラス。巷じゃこれを「ピアノロック」と言うらしいのだけれども、これは今流行っているジャンルと言っても差し支えないだろう。

 

 

しかし、どうやら今聴いているこの曲は、ただ流行りのジャンルに乗っかってきたというわけではないらしい。Aメロに入るや否や、すぐにメンバーの歌唱力にポテンシャルがあることを理解できた。明らかに他のグループにはないものが光っていた。並べるのはいささか失礼かもしれないけれども、端的に言って、「フィロソフィーのダンス」以来の衝撃だった。

 

 

少しきつめのポケットにしまっていたスマホを慌てて取り出して、再生中の曲を確認した。『La La』と、黒のジャケットを背景にして、シンプルな白文字で書かれている。グループ名は、"現場"では見たことのない名前ーーとはいえ、Twitterのタイムライン上で見かけたことのある名前ではあった。

 

 

僕はアイドルソングSpotifyで漁るのが趣味の人間なので、曲は知っているが一度も現場に行ったことがない、ということが往々にしてある。ご多分に漏れず、このグループについても全くステージを見たことがない。けれども、きっとこの子たちは本気だ、と思った。歌とダンスと、パフォーマンスに賭ける覚悟のある子たちに違いない。僕は今Spotifyで聴けるたったの4曲で、少なくともそう信じたいと思わされた。このグループは間違いなくアイドル氷山の頂点へと、一直線に、彗星のごとく駆け上がっていく存在になる、と。

 

 

 

 

 

その名も「Ringwanderung」

 

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実にいい名前だと思った。名付け親が誰かは知らないが、ほくそ笑んでいるに違いない。こういう名前にするくらいだから、よほど自信があったのだろうけれども、きっと今はそれが確信に変わってきていることだろう。

 

  

 

 

 

調べてみたところ、所属事務所はサンカラーズらしい。奇遇なことに、僕がしばらく前にeQリーグで見たことのある子もいた。彼女のステージでの様子を見た限りでは、負けん気が強い子だった記憶がある。あの子がどの声の持ち主かは、例のごとく、さっぱりわからない。"楽曲推し"で楽しいと思うことのひとつに、いったい全体この歌い分けがメンバーのうち誰のものなのかを想像しなければならないところがある。

 

 

わからないながらも、Ringwanderungのメンバーそれぞれの声は実に個性的だと思った。一方でユニゾンには一体感がある。そして、その楽曲のすべてにおいて僕が大好きな「このメンバーでこそ歌う意味がある」と感じさせてくれるシーンがたくさん詰まっていた。アイドル楽曲を聴いて感動するポイントというのは、まさしくこういったシーンを体感できた瞬間にあるのではないだろうか。

 

 

 

各メンバーの細かい歌のテクニックにも注目したい。例えば、『La La』で衝撃的だったことがいくつかある。百聞は一見にしかず、とよく言ったものだが、今回に関しては逆、百見は一聴にしかず

昨今の地下ドル楽曲において、ここまでしっかりとした声量、技巧的なビブラート、そしてシーンに応じた表情を持った曲があっただろうか。ところどころに入るしゃくりや、エネルギーのあるハイトーンも文句の付けようがないぐらいに素晴らしい。もしこれを、本当に、ステージでやってのけていたとしら……末恐ろしい。某Pの加茂啓太郎さんの言葉が脳裏を過ぎる。

 

 

そう、そんなことが成されてしまえば、文字通り「最強」になってしまうのだ。多くのグループがそれを目指し、挫折しているのだから、それこそ「最強」が生まれてしまったら事件である。……いや、もう既にRingwanderungは事件なのだと思う。心の楽曲警察アイドル楽曲派出所から、何台ものシナプス・パトカーがけたたましいサイレンを鳴らし、全身の神経という神経を逮捕して、Ringwanderlungへと勾留してしまうのだ。そうなってしまえば最後だ。何度聴いても高揚感を覚え血肉が湧き、心が踊る感触が根付くことになる。

 

 

 

『La La』以外も紹介せねばなるまい。個人的には『es』を推したい。ややフレンチな雰囲気を帯びながら進行していった先に、ニヒルな詞とクールなヴォーカルが紡がれる。サビに入る瞬間のフェイクが、聴く人の心を音に集中させてくれる。

歌えるアイドルはハモれる。ユニゾンはユニゾンで綺麗に聴かせようとすると、それはとても大変なのだけれども、ハモりについては演者の耳が高度に要求される。『es』ではBメロで、華麗なハモリが披露されている。もちろん、音源では綺麗に聴こえて、ライブでは破茶滅茶なものを見せられるというパターンも往々にして存在するが、少なくとも音源にしているということは、ライブでの披露も想定されているに違いないので、これはチャレンジできるグループでなければ難しい。

 

 

 

ここまで来るともう一曲紹介したくなってくる、『ユレ↑ル↓ナ→』だ。とにかくこの曲はピアノの音列が面白すぎる。個人的には間奏が大好きで「ゆらぎ」にも見えるミニマルな音の並びが、きちんとサビへと解決された瞬間の気持ちよさときたらない。

 

 

 

おかわりだ。もう一曲挙げよう。『ハローハロー』は不協のオルガンサウンドで始まる、Ringwanderungの代表曲……らしい*1。王道的な旋律に対して、ところどころ入る破壊的な和声が絶妙な楽曲である。意図的なミックスなのかもしれないけれども、ほかの楽曲に比べてボーカルがかなり前面に出ている印象なので、"売り"はメンバーのパフォーマンスだぞという主張すら感じる。私は前述の3曲の方が好みなのだけれども、わかりやすい疾走感があるため、実は人におすすめしやすいのはこちらの方なのかもしれない。

 

 

 

そう。そうなのだ。Ringwanderungについて今Spotifyで聴ける4曲のすべてが、圧倒的に思えるのだ。どうかしてる。こんなグループが――今世の中に蔓延っているアイドル楽曲への偏見すべてを、まるでブルドーザーのごとく、完膚なきまでに蹂躙してくれるグループが――現れてたまるか。もしかすると神様は、天や地を作ったときにこう考えていたのかもしれない。「あ、2019年ぐらいにRingwanderungを作っとこ。リンワンあれ。」……それこそ、神様がコロナあれとさえ言わなければ、とも思う。

 

 

 

今は他の星々の明滅に混ざって見えないかもしれないが、いつか太陽のような眩しいぐらいの輝きで、天高くから他の星々を照らすようになる。そんな熱いステージを感じるために必要なのは、1億4960万km先を見るための望遠鏡などではなく、最前で見るためのチケットだ。

 

 

 

RIngwanderungの公式ホームページはこちら。

メンバーなどの紹介もこちらからご覧ください。

ringwanderung-official.com

 

 

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*1:少なくともSpotifyでは一番人気だ