カバーソングの呪縛に打ち克つアルバム Mia REGINA『RE!RE!!RE!!!』
『RE!RE!!RE!!!』
5月29日(水)にMia REGINAのアニソン・ゲーソンカバーアルバム『RE!RE!!RE!!!』が発売された。この記事は、そのアルバムのレビュー……というと大それた話になってしまうので、感想文である。このアルバムの購買意欲を高める記事になれば御の字だ。
Mia REGINAの土俵に引きずり込まれるアルバム
まずこの『RE!RE!!RE!!!』通称リリリッ!は、一言で表すと「ミアレジの土俵に引きずり込まれるアルバム」である。彼女らの思い入れや憧れが詰まった楽曲が、著名な三ツ星楽曲シェフたちの手によって素材の良さを残しつつ、劇的に料理されて耳元へ届けられる。
アルバムを通して感じた特筆すべき点が2つある。ひとつはこのアルバムに収録されている楽曲のすべてにおいて元楽曲のコンセプトを破壊するようなマネを一切していない、ということだ。
もうひとつは、ミアレジの3人がこれまでの人生で見て・聴いてきたものが、それぞれのフィルターを通してアウトプットされた楽曲が収録されているということで、それぞれの楽曲のアレンジに「好き」が詰め込まれているのが、このリリリッ!であろうと感じた。
あと、前シングルのカップリング曲である『ピンヒールムーン』に味を占めている感が否めないのがとても面白かった。
少しだけ楽曲の紹介をしよう。ビッグバンド特有の超(調)展開でアルバムのスタートを飾るのは、スフィアの「Non stop road」カバー。原曲のイメージはそのままに、元気に歩くようなテンポとなって生まれ変わった楽曲は、何かを始めたい時に聴きたい一曲に仕上がっている。弾けるようなブラスの生音といきいきしたベース音が、原曲にはない方向性の爽やかさとハッピーさを演出している。アレンジの良さだけではなく、スフィアが本来奏でていたシンフォニックな歌声を、ミアレジはしっかりとキャッチアップしている。
ライブでのアンセム感が楽しみな「マイペース大王」や、そのクオリティの高さからカバーされ続けている「シュガーソングとビターステップ」が入っているかと思ったら、ほんとにマジで知らない「ねぇ、…しようよ!」というエッチ元気な歌も入っていたりと、このアルバムを通して聴く中で単調さを感じることは一切ない。アイカツスターズファンなら推さない人はいない「STARDOM」もビッグバンド調に大転換されている。幼少期キッズ○テーションで見たセーラームーンのED曲「タキシード・ミラージュ」は、元の静けさを大切にしながらフルートが奏でられる、エンディングにふさわしいアレンジだった。
ソロも本領
メンバーそれぞれのソロも収録されている。若歌様の息遣いから可聴範囲を超えて出ているであろう超音波までもが贅沢に録音され、しっとりとしたアレンジながら今まで出会ってきたであろうすべての人々へ届けたいという気持ちが歌の熱量としてありありと伝わってくる「ありがとう~」はファン必聴。
楓裏さんは秋葉原でのキャリアを思い起こされる「Precious Memories」を熱唱しており、本家がサビをやや低めの音程で歌っているのに対して、楓裏さんはピシッと音程を当てにきているのが印象的*1。クリアに響く歌声と相まって後味がさっぱりとした清涼感のあるカバーとなっている。
「少年よ我に帰れ」
もうひとり、リス子の姐御がソロでカバーした「少年よ我に帰れ」は私が大好きな曲だ。完全に脱線するが、ちょっとこのアレンジについて語らせてほしい。
そもそもこの楽曲は幾原監督作品*2『輪るピングドラム』後半のOP曲であり、やくしまるえつこの持つ世界観をオーケストラ・ポップスへと昇華させた一曲だ。本アルバムのカバーアレンジは、他の収録楽曲と一線を画す。他が良くないということを言っているわけではなく、明らかに趣向が違うのだ。
まず音選びについて。神秘的なのにノイジーで、濁流の上を綱渡りしているようなイメージだ。通奏低音とも機械的な雑音とも似つかない低音類が地を這う中で、ストリングスやピアノが繊細に響き渡り、その最中で熱々のギターが放り込まれる。敢えて言うと、アコースティックなサウンドが楽曲本来の側面を表しているとしたら、オーバードライブなサウンドはリス子の姐御のそれである。明らかに力強い意志が介在していることを感じさせるアレンジだった。これに加えて、姐御の歌い方からもやくしまるえつこへのリスペクトを感じる。だが時折、本人の芯が音として顔を出すのがまた面白い。
そして何よりも、4分12秒からの展開に耳が動揺する*3。原曲を知っていると、何回聴いてもファッ!?!?!?!????となる。急に世界が広く明るくなって、そのうちドラムが行進調になるのもポイントだ。その後の曲調も前半とはやや変わって、こぶしとエッジの効いた歌声が飛び出してくる。カッコ付きの歌詞が浮き彫りになり、楽曲の世界に立体感が出る瞬間を見事に作っていた。
もしこれを本人がディレクションしてやったとしたら、まごうことなき天才だ。音楽の才能というよりかは、「好き」を具現化するアプローチに長けているのだと思う。私はこんなアレンジ怖くてできない。一歩間違えると台無しになりかねない。自分が試される超大勝負。
けれどもリス子の姐御は、自分の「好き」を、声を大にして放つことに成功した。
カバーソングの呪縛に打ち克つ
カバーソングは、どうしても元の楽曲のイメージに引っ張られてしまう(と私は思う)。ゆえにカバーソングというと、元の曲はあぁだこうだとか、アレンジは耳になれないだとか言われがちである。しまいには「なぜこの曲をカバーすることを選んだのか」という制作意図すらも評価対象になってしまうので、よっぽど歌が巧くないとなかなかそのアーティストの魅力にフォーカスされない。これはカバーソングが抱えたある種の呪縛と言っていいだろう。
聴き手の「この曲知っている!」という気持ちと、「この人の歌が好きだな!」という気持ちの相乗効果があって、はじめてその魅力が伝わるカバーソングになるのではないかと思う。もちろん、カバーソングが有名になって売れているアーティストもいるので、一概にカバーソングでは魅力が伝わらない!などと言うつもりは一切ない。
だけど、正直に言って、売る・売れるために他人行儀で歌っているだろう楽曲はぜんっぜん面白くない。何が面白くて・好きでこの曲歌ってんだろこの人、とすら思う。
では、『RE!RE!!RE!!!』はどうかというと、その点でめちゃくちゃ面白い。やっぱり「サブカルチャー」が「好き」という想いがビシバシ伝わってくるアルバムだった。
カバーソングがその呪縛から開放される瞬間を垣間見える作品は、そう多くない。リリリッ!はまさに、その呪縛に打ち克つ方法を魅せてくれるアルバムだろう。